こんな結末を、誰が予想しただろうか? 月並みの言い方にはなってしまうが、あまりにもよくできたシナリオである。
シーズン前半を終えた段階では、マクラーレン勢が圧倒的な速さを見せていた。実に14戦中11勝。ランド・ノリスとオスカー・ピアストリのふたりによる、チームメイト同士のタイトル争いになるのは間違いないと思われた。きっと世界中のF1ファンのみなさんも、そうお考えになっていたことだろう。私もそうなるのは間違いないだろうと思っていて、この「OKINIIRI」に掲載していただいたシーズン前半戦総括でもそう書いた。

FORMULA 1 MSC CRUISES UNITED STATES GRAND PRIX 2025
しかし夏休みが明けると、レッドブルのマックス・フェルスタッペンが猛烈な追い上げを見せ、連戦連勝……マクラーレン勢の背後に追いついた。最終戦を迎えた段階では、ランキング首位はノリスの408ポイント。しかしフェルスタッペンは12ポイント差のランキング2番手に浮上し、ピアストリはノリスから16ポイント差のランキング3番手……オランダGPの際にはランキング首位はピアストリで、フェルスタッペンはそこから104ポイントの遅れだったことを考えると、いかに驚異的な追い上げだったかが分かろう。

レッドブル・レーシングのマックス・フェルスタッペン/FORMULA 1 QATAR AIRWAYS QATAR GRAND PRIX 2025
これには、ある理由がひとつあった。マクラーレンはふたりのドライバーに優劣を付けず、平等に扱った。コース上で接触さえしなければ、バトルするのは自由……いわゆる”パパイヤ・ルール”の存在である。
本来チャンピオンを争うようなチームは、ひとりのドライバーを優先することが多い……つまりナンバー1ドライバーを立てることが多い。もうひとりのドライバー=セカンドドライバーは、ナンバー1ドライバーを徹底的にサポートし、最大限のポイントを稼ぐ手助けをする。そしてチーム力も備わっていれば、他チームはおいそれとは打ち破ることができなくなる。
今年のマクラーレンほどの力があれば、もしいずれかのドライバーを優先していれば、あっさりとダブルタイトル獲得を決めただろう。しかしチームはあくまでパパイヤ・ルールを優先し、シーズンを戦い抜いた。その結果、最終戦までタイトル争いがもつれ込んだ。
激闘は最終戦まで……

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マクラーレンのランド・ノリス/FORMULA 1 SINGAPORE AIRLINES SINGAPORE GRAND PRIX 2025

マクラーレンのオスカー・ピアストリ/FORMULA 1 SINGAPORE AIRLINES SINGAPORE GRAND PRIX 2025

レッドブル・レーシングのマックス・フェルスタッペン/FORMULA 1 QATAR AIRWAYS QATAR GRAND PRIX 2025
その最終戦の舞台はアブダビのヤス・マリーナ・サーキット。ランク首位のノリスは、表彰台に上がることができればチャンピオンになれる状況だった。フェルスタッペンは最低でも3位以上にならねばならず、それでもノリスの結果次第。ピアストリは最低でも2位以上でフィニッシュしなければならなかった。
この最終戦も混沌とした戦いになった。タイトルを争う3人が、全て異なる戦略で走ったからだ。
結局レースを勝利したのはフェルスタッペン。他を圧倒する速さを見せて、今季全ドライバー中最多となる8勝を挙げた。2位にはピアストリ、そしてノリスは3位でフィニッシュした。この結果、ノリスが自身初のチャンピオン獲得を決めた。最終的にランキング2位のフェルスタッペンとの差は、わずか2ポイントだった。
最終戦までもつれ込む激戦となった2025年シーズンのF1。シーズン前半はワンサイドゲームになると思われたがそれを覆し、稀に見る絶品のシーズンになったと言えよう。
苦戦を強いられた角田裕毅……2026年はリザーブドライバーに

FORMULA 1 HEINEKEN LAS VEGAS GRAND PRIX 2025

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第3戦日本GPからレッドブルのシートを射止めた角田裕毅は、シーズン前半はなかなかうまくいかないレースが続いたが、夏休みを経た後半には躍進が期待された。しかし後半戦も、時折光る走りを見せたものの、全体的には厳しい戦いを強いられた。
アゼルバイジャンGPではノリスを抑え込み、アメリカGPのスプリントでは、絶好のスタートを決めて7位入賞。カタールGPのスプリント予選ではフェルスタッペンを上回る速さを見せた。しかしそれ以外は、入賞すら難しいレースが多かった。速さがあっても、チームのミスによってポイントを逃すというレースも少なくなかった。結局421ポイントを獲得してチャンピオンを争ったチームメイトのフェルスタッペンに対し、角田は33ポイントの獲得にとどまりランキング17位。大きすぎる差をつけられてしまった。
これには多くの理由がある。角田本人が語るところによれば、今季が非常に僅差の戦いだったということ、そしてチームがフェルスタッペンのタイトル獲得に集中したということが、その主な原因だったという。僅差の戦いになったのは、今季が現行レギュレーション最後の年であったから。予選で1位から最下位までのタイム差が1秒前後ということも珍しくなかった。フェルスタッペンからコンマ2〜3秒差であれば合格とよく言われたが、その差であっても順位の上では大きく差がついてしまう、稀に見る過酷なシーズンであったのだ。
また前述の通りフェルスタッペンは後半戦に猛烈な勢いでポイントを積み重ねっていったが、決して楽な戦いだったわけではない。そのためチームはフェルスタッペンにリソースを集中し、角田のマシンに対する対処は一歩遅れた。その影響は少なくなかったようだ。ただ好成績を残せなかったことで、角田はレギュラーシートを失うことになった。来季はレッドブル陣営のテスト&リザーブドライバーを務める。
ただそんな角田は、下を向いているわけではない。「リザーブドライバーだけで終わるわけではないかもしれないです。モチベーションは、来年に向けてめちゃくちゃ高いですよ」と語っている。開幕当初は、レースに出場することはないかもしれない。しかし、来季も角田の動向を注目しなければならないだろう。
2026年はレギュレーション一新。勢力図が大きく変わるかも?

FORMULA 1 SINGAPORE AIRLINES SINGAPORE GRAND PRIX 2025
2025年シーズンが終わったばかりだが、来シーズンは大いに注目すべきシーズンになろう。テクニカルレギュレーションが一新され、マシンが大きく変わるからだ。
まず言及すべきはパワーユニットであろう。現行のパワーユニットは、エンジンと電動モーターの出力比が8:2程度であるが、来季からは両者が均等になる。つまり、扱う電力量が格段に大きくなるのだ。これにより、ハードウェアが変わるのはもちろんのこと、エネルギーマネジメントの重要性が増し、さらに複雑になる。
また使う燃料も、従来のガソリンではなく、持続可能燃料となる。この持続可能燃料は、成分自体はガソリンと同じであるが、化石燃料であってはならず、二酸化炭素排出量がゼロでなければならない。この持続可能燃料を開発/製造するテクノロジーがF1で使うことで成熟すれば、未来の自動車産業に間違いなく活きるはず……電気自動車ではない、未来のモビリティの別の選択肢を切り開くものだ。

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またマシンも若干小型・軽量化され、さらにこれまで使われてきたDRS(空気抵抗削減システム)が廃され、ストレートとコーナーで空気抵抗のモードを入り変えられる”アクティブエアロ”というシステムが導入される。また、マシンの空力に関する考え方も大きく変わる。つまり同じ"F1マシン”という呼び方であっても、これまでとはまるで異なるレーシングカーということになる。
そんな来シーズンは、勢力図が今とは全く異なる可能性がある。レギュレーションが変わる時には、そうなることが多い。たとえば現在トップチームの一角に数えられているレッドブルやメルセデスは、2009年のレギュレーション大変更のタイミングで、中団チームから一気にトップチーム入りを果たした。それと同じようなことが起こらないとも限らない。
またアストンマーティンは、来季からホンダのパワーユニットを使うことが決まっており、レッドブルは自社製のパワーユニットを開発して使うことになる。これらのコンビネーションがどんなパフォーマンスを見せるのかという点も、要注目ポイントである。さらにアウディがF1に初参戦。キャデラックも、パワーユニットこそフェラーリ製であるものの、ついにF1に打って出る。
新時代のF1が始まる。
BBSは来季も引き続きF1に挑む

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BBSは2022年からF1の公式ホイールサプライヤーを務めてきた。つまり、全F1マシンが、日本で鍛造されたホイールを履いていたわけだ。しかしこのワンメイク供給は2025年シーズンで終了。2026年からは再びマルチメイクになり、各チームがそれぞれホイールメーカーと契約を結ぶことになる。
ワンメイクサプライヤーではなくなるものの、BBSは2026年以降もF1への挑戦を継続することが決定。4年間のワンメイク時代に培った知見を活かし、パートナーとなるチームの活躍を足元で支えていくことになる。
