元ウイリアムズF1メカニック、白幡勝広が語るタイヤ交換の極意「日本製ホイールを扱えるのは誇りだった」(Text:Motorsport.com 田中健一)

BBSが全てのチーム、マシンのホイールを供給するF1。その18インチのマグネシウム鍛造ホイールを最も多く扱うのは、ピットストップの際にタイヤ交換を担当する、F1チームのスタッフたちではないだろうか?

今のF1では、2秒と少しで前後左右4本のホイールを交換する。まさに “目にも止まらぬ”早業である。

2022年までウイリアムズF1チームに、ある日本人メカニックが在籍していた。白幡勝広である。この白幡はウイリアムズで、新しいホイールを “はめる”役割を長く担当……その極意を訊いた。

画像: F1日本グランプリにて/ウィリアムズのチームスタッフと久しぶりの再会を果たす

F1日本グランプリにて/ウィリアムズのチームスタッフと久しぶりの再会を果たす

「本当は、ホイールナットを緩めたり、締めたりするガンマンをやりたかったんですけどね。格好いいですから。でも僕はずっと、タイヤをはめる係でした」

白幡はそう言う。

「前輪後輪、そして左右……4箇所全てやりました。どのタイヤを担当しても、誰にも負ける気がしなかったです」

前述の通り今のF1のタイヤ交換は、目にも止まらぬ早業。マシンが所定の位置に停車するとジャッキで車両を持ち上げ、ホイールナットを緩め、それまで履いていたホイールを外し、新しいホイールを装着、ホイールナットを締め、ジャッキを下ろして再発進する。この作業の全てを、2秒と少しで終えるのだ。そのため、右左、そして前後どこのポジションを担当させるのがいいのか、チームは吟味するのだという。

「身体をどちらに捻りやすいか、ガンマンならばガンをどっち向きに持った方が持ちやすいのか、その他にも筋力、身長、腕の長さなども含めて適正を見極めてポジションが決まるんです」

「でも僕はどこでもできました。僕はあんまり賢くないんで(笑)。そして幸運にも、身体がどっちにも馴染んだみたいです」

「他のチームの作業などを、動画でコマ送りにして検証したりもしていました。とにかく他のチームに負けてるのが悔しくて……早くなりたかった。それでタイムを削れる要素をチームと共有しました」

F1の場合、タイヤ交換が早ければ早いほど良いのは当然だ。コース上で0.1秒を稼ぐのは、容易なことではない。しかし、タイヤ交換で0.1秒を稼ぐことができれば、ドライバーを大きくサポートすることができる。

しかし白幡は、闇雲に作業スピードを早くすればいいわけではないと言う。

「僕らって、2.2秒でできるところを2.6秒かかってしまうと、すごくモタッと感じるんですよ。これは、やった人じゃなきゃ分からないかもしれませんけどね」

「ただタイヤ交換って、チームワークなんですよ。ホイールナットのピンをガンが抑えている時にだけ、ホイールが引き抜けるんです。ナットが緩み切っていない時にホイールを引き抜こうとすると、ホイールを掴んでいる手が滑ってしまうこともあります」

「以前、作業がものすごく早い、早さに命をかけているようなイタリア人のホイールガン担当のメカニックがいたんです。でも、早ければいいというモノではないんです。彼だけが早くても、うまくタイヤは交換できません」

「ホイールはタイヤを含めて25kgくらいと重いので、外す時には全力で引っ張ります。だから、ひっかかりがあるとタイヤから手が滑ってしまうんです」

タイヤ交換を担当する人物は、メカニックやガレージテクニシャンなど、チームによって様々だ。そして彼らは、ファクトリーでも日々練習をしているという。

「ファクトリーには、バッティングセンターのピッチングマシンのような機械があって、それで練習をするんです」

そう白幡は明かす。

「このマシンには1輪だけが取り付けられるようになっていて、あたかもクルマが走ってきたかのように、右から左、左から右へと動く。マシンの左右も変えられるし、フロアやウイングなども取り付けられるようになってるんで、かなり実車に近い練習ができるんです」

「あとはサーキットに行ってから、木曜日や金曜日、そして日曜日の朝なんかにも練習します」

なおBBSは2022年から全車にホイールを供給している。この年からホイールが18インチとなり、その分タイヤの重量が増した。それによりタイヤ交換の作業時間も増したが、白幡曰く最初はその持ちにくさにも戦々恐々としていたという。

「初めに持った時には重くて、やばいと思いましたよ」

白幡はそう笑う。

「でもやっぱりタイヤ交換を担当したかったから、すごくトレーニングしました。その結果、すぐに慣れることができました」

「そして、タイヤを外す担当にとって実は持ちにくくなったんです。13インチの時には、ホイールの中に手を入れて持つことができましたが、18インチになったのと同時にホイールカバーが付いたんで、タイヤのサイドウォールを持つしかなかったんです」

BBSのホイールは全て日本製であり、富山県高岡市にある工場で全て鍛造されている。白幡も昨年BBSの工場を見学したという。

白幡は2022年限りでウイリアムズを退職したが、在籍していた当時、BBSのホイール全てが日本製だと聞いて、チーム内で話題にしたと明かした。

「日本で全て作っているというニュースを見た時、チームで話題にしました。そのくらい嬉しかった」

「チームが日本のメーカーのモノを使っていたり、日本のスポンサーがつくと、嬉しいですよ。やっぱり日本人としては、日本のモノっていうのは誇らしいと思うんですよね。サッカーとか野球の日本代表を応援するような、仲間意識というのかな、そういうのを感じるんだと思います」

「日本人ドライバーはもちろんですが、多くのチームでたくさんの日本人スタッフが活躍しています。もちろんメーカーさんも。そういうところに、日本でもっとスポットライトが当たるといいですね」

画像: 写真左はBBSジャパン 代表取締役社長の新田孝之

写真左はBBSジャパン 代表取締役社長の新田孝之

なお白幡はレーシングチームのメカニックになる前には、自動車関連の専門学校(東京工科自動車大学校)で講師を務めていた人物。当時、ホイールの重要性を生徒にどう教えていたのか?

「ホイールというのは、タイヤと車両をつなぐパーツです」

そう白幡は言う。

「タイヤは重要だとよく言われますけど、そのタイヤを活かすには、ホイールが大切です。剛性と軽さが重要だと思います」

「F1では、思ったより歪むとか、そういうことがあってはいけないんだと思います。ダンパーや車両のセッティングは、多くのリソースから算出しています。だから歪むなら、いつも同じように歪むとか、そういうモノが求められると思います」

「軽くなきゃいけないというのは、バネ下重量が軽い方がいいからです。ホイールは回転するだけじゃなく、路面に合わせて上下しますから、慣性が少ない方がいいです。段差を乗り越えた時、ホイールが重いと、サスペンションでその動きを収束させるのが一歩遅れてしまいますからね」

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