Honda R&D Chalengeの挑戦
自己啓発チームとして再スタート
ホンダの社内プロジェクトとして2016年に作られたチーム“Honda R&D Chalenge”。その発足には2015年に発表されたシビック タイプRが大きく関わっている。
「2015年のシビック TYPE Rはニュルブルクリンク最速という謳い文句で打ち出しました。もちろん当時ラップタイム最速を打ち立てたことに間違いないはないのですが、はたしてニュルの24時間耐久レースに出たらどうなるのか? 『ニュルブルクリンクで〜』と謳う以上、とことんやってみようじゃないか!と産声をあげたのが始まりです」
そう語るのは、シビック タイプRの開発責任者であり、2019年から同チームのドライバーも勤める柿沼 秀樹さんだ。
チームメンバーは柿沼さんをはじめとするシビックの開発メンバーに加え、モータースポーツに関わる業務・活動をしてきたホンダの社員達で構成される。
その中の一人、シビック タイプRの開発担当である竹内 治さんは、“レースへの挑戦は車両開発に対しても大きくプラスになる”と語る。
「タイプRは『開発者が作りたいクルマを作る』という思いで作られています。しかし、それを届ける先はあくまでもお客様です。自分達で現場を経験しないと、最前線で何が足りないのか、どうすればお客様に喜んでいただけるのか分からない。耐久レースほど、それを知るのに素晴らしい機会はありません」
スタッフ達の想いを乗せてスタートした“Honda R&D Chalenge”は、2017年のもてぎエンジョイ耐久レース(通称JOY耐)を皮切りに、国内の耐久レースに参戦。
19年にはピレリ スーパー耐久レースへの参加も表明していた。
ところが……2019年2月某日、チームの存続にまつわる出来事が起こる。
心に燃えるチャレンジ魂。プロジェクト中止から再スタートへ
2019年2月に、ホンダは大規模な運営体制の変更を発表した。それに伴い、社内プロジェクトとして進行していた同チームの活動は中止に。
しかし、3年間に渡り活動を続けてきたチームメンバーは諦めなかった。
業務としての活動ができないのなら、ホンダ社員の“自己啓発”として続ければいい。
これまでのように資金や時間、設備が確保できるわけではないが、自分たちが考える最高のクルマを作ってきた自負と、ホンダ技研工業の社員として培ってきたチャレンジング・スピリッツはある。
そうして新たにスタートを切ったのが、今回ご紹介する「株式会社ホンダ技術研究所 自己啓発レース活動チーム“Honda R&D Chalenge”」だ。
2019年の善戦を経て
チームの体制が大きく変わり、プライベーターとして新たに参加することになった2019年のスーパー耐久。
ほとんど市販車に近い状態であったが、同クラス3位の車両と同一周回でレースを完走という快挙を成し遂げることができた。
しかし、同時に課題も浮き彫りになる。冷却性能とコーナーリング性能の向上だ。
このとき得た課題は、現行のシビック タイプRのマイナーモデルチェンジに反映されている。(詳細は下記記事からどうぞ)
現行のシビック TYPE Rについてはこちら
今年のスーパー耐久には、これまで使用してきた2017年モデルに、アップデートを施した車両が使われる。
昨年からの変更点は、タイヤを245から265に拡大。エンドレス製ブレーキパッドによる制動力の向上、サスペンションのスプリングレートアップ、VarisのCOOLING BONNETによる空力性能・冷却性能の向上が挙げられる。
さらに、フロントグリルの開口部拡大、エアスポイラーの形状変更、2ピースディスクブレーキ化は量産モデルと同様の仕様にアップデート。
そして、ホイールにはBBSのRFを採用している。
「今回の挑戦にあたって、『シビック TYPE R リミテッドエディション』の開発でご協力いただいたBBSさんに声をかけたところ快諾いただき、アルミ鍛造1ピースホイールのRFを提供していただきました。リミテッドエディションで共同制作したホイールを使えたらよかったのですが、量産車のホイールサイズ(20インチ)で履けるタイヤがレギュレーション的になくて。今回はタイヤを18インチに下げて対応しています」とは柿沼さんだ。
シビックの開発以前からBBSホイールに信頼を寄せる柿沼さん。そのヘルメットには大きくBBSロゴが光る。
余談だが、シビック タイプRは2Lなのに、なぜST-2(3.5Lクラス)に? と思われる方もいるかもしれない。
実はスーパー耐久のレギュレーションで、過給機付き車両は排気量にターボ係数として1.7倍をかけなけしななければならない……というルールがあるのだ
チームのドライバーはこちらの4人
ホンダ社員たちの挑戦に賛同した多くのメーカーの期待を胸に、ついにレースが始まる。