不快な突き上げは皆無。しなやかさが心地いい
タイヤ交換後、一般道を走り出してすぐ感じられたのは心地よいしなやかさだ。
インチアップによってタイヤ幅が広くなると、ハンドルは一般的には重くなる。また路面の凹凸やうねりの影響を受けやすい。さらにバネ下重量が増すことでサスペンション系の減衰性能が不足気味になる場合もある。結果、ともすればドタバタした乗り心地や落ち着きのないハンドリングに悩まされかねない。
いっぽう、LMとパイロットスポーツ4の組み合わせは、操舵感が純正時よりもむしろ軽い印象に変化していた。軽いけれど、接地感がしっかり伝わってくるから安心感は変わらない。加えて、少しこじるように方向を変える感覚があった純正の味付けに対して、より滑らかにクルマが向きを変えてくれるように思えた。
それが「しなやかさ」に繋がっている。
グリップ感がダルになってスポーティさをスポイルしてしまったワケではない。それどころか感覚的には「粘り」が増した、と表現するべきだろうか。
パターンやコンパウンドなどタイヤの表面でグリップする、というよりも、タイヤ全体とホイールが併せ持つしなやかさ(ちょっと専門的に言えば“靭性”と呼ばれるもの)によって、トラクションがよりダイレクトに路面に伝わっていくかのような感覚が生まれている。
高速道路での直進性も、より引き締まった印象だ。強靭な手応え感こそややマイルドになったものの、わずかなハンドル操作に対するレスポンスがちょうどいい。
これならドライバーは、よりリラックスした気分で運転できることだろう。
リラックスと言えば、路面の凹凸に対する当たりが穏やかで、不快な突き上げがほどよく解消されていることにも感心させられた。インチアップのもう一つの不安点である「静粛性」についても、純正との違いはほとんど気にならない。
なによりあれほど不安だった「重さ」が、逆に適度な低重心感に繋がっているのが凄い。
走り始めに一瞬、タイヤ交換と同時に筆者に内緒でローダウンしておいたのではないか、と疑ってしまったほど。全体的な落ち着き感が、さらに増しているように感じられたのだ。
少なくとも公道レベルの試乗では、インチアップによる悪影響はまったくなし。
それどころかロードスターの「インチアップ」には、非常に大きな可能性があることを実感させてくれた。
そんなインチアップに対するポジティブ観は、このソフトトップの試乗の後、異なる仕様のロードスターによってさらに上書きされることになった。
オプション装着のRFに拮抗する「人馬一体」を実感できる
ソフトトップ車の取材後に試乗することになったのが、リトラクタブルハードトップ機構を備えたRFだった。
RFは、上質感溢れるファストバックスタイルに加え、排気量が500cc多いSKYACTIVE-Gを搭載するなど、ソフトトップモデルとは異なるベクトルでロードスターの魅力を追求している。
装備的にもこだわり濃度がやや高め。たとえばオプションとはいえ、ブレーキもより高性能なBremboのフロントブレーキシステムをチョイスすることができる。
試乗車両は、17×7.0インチの純正オプションホイールを履いていたが、こちらはなんと軽量なBBS製鍛造1ピース。タイヤは205/45R17のブリヂストン(ポテンザS007)と、まるで今回のホイールマッチングテストに挑むかのような仕様だった。
実際に運転してみると、しなやかな乗り心地とより大人びたハンドリングを体感することができる。RFらしい上質感溢れるフィーリングだ。
しかも驚いたことに、LMとパイロットスポーツ4によって17インチ化されたソフトトップモデルの走行フィールが、その味付けに非常によく似ていたのだ。
RFの17インチモデルを通して、ロードスターの開発者が極めた「人馬一体」には、もう1段、異なるステージがあることを知った。奇しくもLM×パイロットスポーツ4はそんな、さらに魅力的な「ロードスターらしさ」を感じさせてくれる組み合わせでもあった。
ちなみにLM198は、Bremboのブレーキシステムに対応している。つまり、たとえばBBSホイールを純正装着したRFに着せ替え感覚で履き替えても、走りをスポイルすることはない。
取材場所からの帰路、並んで走っているソフトトップモデルの足元がキラキラと美しく輝いている様子に一瞬、目を奪われてしまった。
傾きかけた陽の光を反射したLMは、走っている「姿」もまた煌びやかだ。回転するディスク部から真っ赤なBremboキャリパーが覗いていたなら、さらにその華やかさが際立って見えたに違いない。
純正オプションのBBSもなかなかスタイリッシュではある。けれど時には、少し違ったスポーティ感を演出してくれるLMで、足もとからキラキラ感をコーディネイトしてみるのもなかなか楽しそうだ。