「ミスター」だけど女の子がお出迎え? オリジナルキャラクターが看板の店
全国展開する「ミスタータイヤマン」は、地域に根差したタイヤ専門店として知られる存在だ。ただ、車に詳しくない人にとっては、「タイヤショップ」というだけで少し身構えてしまう人もいるかもしれない。
しかし、静岡県沼津市の「ミスタータイヤマン 沼津バイパス店」は少し違う。
来店客を迎える「カインディーちゃん」
イラストや手書きのPOPが並ぶ店内
店内には手書きのPOPが並び、オリジナルの女性キャラクター「カインディーちゃん」が来店客を迎える。BBSホイールの販売実績も豊富なプロショップでありながら、黒川奈美店長が目指しているのは、車に詳しい人だけの店ではない。
「女性一人でも気軽に来られるお店にしたいんです」
その言葉どおり、同店が大切にしているのは"相談しやすさ"だ。
「女性一人でも来られる店」をつくりたい
黒川店長がこの業界へ入った頃、車の知識はほとんどなかったという。ところが、当時の店長から受けた教育は意外なものだった。
「『車のことは全部覚えなくていい』って言われたんです。何も知らない人が安心して相談できる窓口になればいいからって。だから、まずは話を聞けること。それを最初に教わりました」
知識を増やすことよりも、まず相手の話を聞くこと。その考え方は、店長となった今でも変わっていない。
「困っていることをどうやったら一緒に解決していけるか。それが一番大事ですね」
ミスタータイヤマン 沼津バイパス店の店長・黒川奈美さん
タイヤは、多くの人にとってできれば交換したくないもの。ネットで価格を調べ、少しでも安く購入したいと考える人も少なくない。
それでも、来店したお客様に「少し高くてもここで買おう」と思ってもらえる店でありたい。そのためには、商品を売る前に安心して相談できる空気をつくることが欠かせない。
その象徴が、“女性一人でも来られる店づくり”だ。
「女性が一人で来られるお店なら、男性も安心して来られるんです」
専門店は、「知識がないと入りづらい」と感じる人も多い。そんな中、女性が気軽に来店している店は、「ここなら相談しても大丈夫そう」という安心感につながる。結果として、誰にとっても相談しやすい店になる──。これは黒川店長個人の考えにとどまらず、同店が大切にしている姿勢でもある。
しかし、その考えを店として形にし、地域に根付かせていく道のりは、決して平坦ではなかった。
2023年のオープン当初は、まず「どんなお店なのか」を知ってもらうゼロからのスタート。認知も信頼もない状態から、一歩ずつお店の基盤を築いていく必要があったという。
「今は、ようやく地域のお店としてのスタートラインに立てたくらいですかね」
そう笑って振り返る黒川店長。その言葉には、一人ひとりのお客様との信頼を積み重ねながら、少しずつ店のイメージを築いてきた3年間がにじむ。
「広告をいっぱい出してお客様を増やすよりも、『あそこ良かったよ』って紹介してもらえるほうがうれしいんです」
そのために意識していることの一つが、お客様の期待を少し超えること。
「例えばタイヤ交換が5分で終わったら、『えっ!?』って誰かに話したくなりません?」
もちろん、安全で確実な作業が大前提。そのうえで、「予想以上だった」と感じてもらえる体験を届けることが、紹介や口コミにつながっていく。黒川店長は、そうした信頼の積み重ねが店をつくっていくと考えている。
店内の随所に登場するカインディーちゃん
こちらはミスタータイヤマンの公式キャラクター「スピーディー」(左)と「セーフティー」(右)
その考え方は、接客だけではなく店内の至るところにも表れている。
女性キャラクター「カインディーちゃん」も、そんな店づくりの考え方から生まれたもの。
「『ミスタータイヤマン』という名前で、キャラクターも男性だけなんですよ。この時代、それだけというのはどうなんだろうと思って(笑)」
女性にも親しみを持ってもらえる店にしたい。そんな思いから誕生したオリジナルキャラクターで、名前の由来は「Kind(親切)」。その名のとおり、親切な接客への思いが込められている。
「当時私はメガネをかけて髪も長かったので、そのイメージも少し入っているのかもしれません」と笑う。店内のあちこちで来店客を迎える「カインディーちゃん」は、親しみやすい店づくりを象徴する存在として、この店にすっかり溶け込んでいる。
毎週木曜日のレディースDAYでは、購入特典のプレゼントも用意されている
待ち時間も快適に過ごせるテレビや漫画を備えた店内スペース
子ども向けに用意された店内のぬりえコーナー
日々寄せられるお客様の声を、店舗づくりに生かしている
AI時代だからこそ、プロショップにできること
近年、黒川店長が接客の現場で感じている変化がある。
「今はAIに聞いて、ある程度決めてから来店される方が増えました」
どんなタイヤがいいのか、どんなホイールが似合うのか。AIやインターネットで情報を集め、自分なりの答えを持って来店する人が少なくない。
そんな時、黒川店長はまず「AIは何て言っていました?」と尋ねる。
AIの答え、お店で積み重ねてきた経験、そしてお客様の予算や使い方。その三つを整理しながら、一緒に最適な答えを探していく。
実は今回の取材を前に、黒川店長自身もAIに相談してみたという。
「『どう受け答えをしたら頭が良さそうに見えますか?』ってチャッピーに聞いてみたんです(笑)」
取材前に緊張からAIへ相談したというエピソードも披露
返ってきたのは、どこかカウンセラーのような答えばかり。
「『それは分かってるんだよ』っていう内容ばかりで。結局、使いませんでした(笑)」
そう笑う黒川店長だが、AIそのものを否定しているわけではない。
「私も普段、買い物をする時などにAIを使うことはあります。情報を集めるうえでは便利ですよね。でも、この車ならどうか、このタイヤならどうか、お客様の乗り方や使い方ならどうか。車検は大丈夫なのか、通勤で毎日乗るのか、休日だけ楽しむ車なのか。そこまで踏み込んで考えるのは、やっぱり私たちの仕事なんです」
検索すれば多くの情報を得られる時代になった。しかし、一人ひとりの車や使い方、求めるものに合わせて答えを組み立てるには、実際に数多くの車やユーザーと向き合ってきた経験が欠かせない。
AIが身近になった今だからこそ、人と向き合い、会話を重ねながら答えを導いていく接客の価値は、むしろ大きくなっているのかもしれない。