3台のマツダRXファミリーが登場
待ち合わせ場所は、“矢切の渡し”松戸市側の駐車場。加藤さんのマツダRX-8を待っていると、爆音を響かせて現れたのは黒のマツダ サバンナRX-7。そしてその後ろには、2台の白いマツダRX-8が続く。
先頭のRX-7から降りてきたのが加藤さんで、RX-8にはそれぞれ長男の慶太さん(27歳)、次男の達也さん(21歳)が乗っていた。
父・加藤さんとサバンナRX-7
長男・慶太さんとRX-8
次男・達也さんとRX-8
3台のホイールに目をやると、すべてBBSだ。“マツダのスポーツカーとBBSを愛する一家”の登場かと思いきや、実はこの3台すべて、加藤さんの所有車。RX-8は息子たちに“買い与えた”ものだという。
「大きな声では言えませんが、奥さん対策なんです」
加藤さんがこの日乗ってきたRX-7は、中古で購入してからすでに15年以上が経つ。もともとはゼロヨン用に仕上げられた車両を、サーキット仕様に変更した一台だ。燃料クーラーにはドライアイスを入れて走っていたという。
「ちょっと前まではバッテリーも最小限のものしか積んでいなかったので、夜に信号なんかで停まるとライトがフーッと暗くなってエンジンが止まっちゃうこともありました」
サーキット用にチューニングされた加藤さんのサバンナRX-7
街乗りはしにくいものの、走行性能は折り紙付き
エンジンの爆音もあり、公道では乗りにくいシロモノだが、サーキットの走行会で走らせていたいと考えていて、そんなRX-7を手元に残しつつも、新たにクルマを手にいれるために加藤さんが考えたのが、“子どもに免許を取らせ、クルマを買い与える”という作戦だ。
「子どものためなら奥さんも文句は言わないだろうと……」
慶太さんの最初の1台、赤のマツダRX-8。足元はBBS RI-Aだ
慶太さんが19歳で免許を取得したのを機に、加藤さんの作戦はついに実行に移された。慶太さんと結託して奥様のデミオを勝手に下取りに出し、2008年式の真っ赤なボディの中古のマツダRX-8を購入。とはいえ、当時は慶太さんが学生だったこともあり、実際に乗り回していたのは、もっぱら加藤さんだった。その4年後には、エンジンの調子が悪くなったことを契機に、白の2012年式RX-8に買い替え、現在はこのクルマに乗っている。
しかし、慶太さんが就職すると、休日にRX-8で出かけることが次第に増えていった。やがて加藤さんとともにサーキットを走るように。
「同じ趣味を持つようになったのは嬉しいんですが、私がRX-8に乗れなくなってきたのは、完全に誤算でした」と加藤さん。
慶太さんのRX-8もサーキット仕様
エンジンルームにもバッチリ手が加えられている
となると、次のターゲットは次男の達也さんだ。あまり積極的ではない達也さんを説き伏せて免許を取らせ、もう1台、白の2012年式RX-8を買った。今のところ、加藤さんのメインの愛車は達也さん用のRX-8だ。
先頭から長男・慶太さん、父・加藤さん、次男・達也さんだ
家賃2,000円の時代に駐車場代が3万円
愛知県生まれの加藤さんは、高校在学中の18歳で免許を取得。親戚から譲り受けたカローラを1年で全損させてしまったが、それでもクルマへの興味は薄れることはなかった。
「就職した年(1991年)に、マツダがル・マン24時間レースで日本車として初優勝したんです。それで、給料ももらえるようになったことだし、すぐにRX-7を買いに行きましたよ」
こうして初めて自分で購入したのが、マツダのサバンナRX-7だった。
東京で就職した当初は、6畳1間に先輩と2人で暮らす職員宿舎での生活。築45年のボロ屋で家賃は月2000円と格安だったが、対照的に駐車場代は月3万円。クルマのローンもあり、生活は質素で、1日2食に切り詰めていたという。
「RX-7は当時、スポーツカーとしては比較的安かったんです。アフターパーツも豊富で、いろいろと楽しめました」
新車で購入したRX-7だったが、たった2年で買い替えることになる。
「1台目を買った後、すぐにRX-7の新型が出たんです。それが悔しくて。2年間我慢したんですが、どうしても乗り換えたくなってしまって……」
加藤さんの“RX-7愛”はここから始まった
悩んだ末、新型へ乗り換えた
1996年に結婚、翌年に慶太さんが生まれると、さすがにRX-7は不便なので、ファミリーカーとしてマツダのボンゴフレンディを購入。家族がいる生活のなかでも、一人のときは愛車のRX-7を駆っていた加藤さんだったが、雨中の単独事故で全損の憂き目にあう。新車で購入してから5年目の悲劇だった。
サーキット走行でBBSの頑丈さを実感
それでも、加藤さんのRX-7愛は冷めることがなかった。オークションサイトで安く手に入れたRX-7を、時間と手間をかけてレストア。そのころから筑波サーキットなどで走行会に参加し、スポーツカーの性能を存分に楽しむようになる。そして同時に、BBSのホイールにも目が向きはじめた。
「もちろんBBSは知っていましたが、サーキットに行くとより意識するようになりましたね」
加藤さんが初めてBBSのホイールを履いたのは、今も所有している黒のRX-7だった。ネットオークションでZ32の純正オプション品を格安で見つけ、3セット購入したという。
「サーキットで縁石に当てたり、乗り上げたりしても歪まないんです。鍛造で頑丈だから、高いスピードレンジでも安心してコーナーを攻められます」と、加藤さんはその堅牢さに驚かされたと振り返る。
サーキットでBBSの頑丈さを実感
慶太さんの最初のRX-8(赤)を買うときも、加藤さんは当然BBSを勧めた。しかし慶太さんはデザイン重視で他社のホイールを選びたかったという。さんざん悩んだ末、「お金は俺が出すから」と加藤さんが押し切り、BBSのRI-Aに決まった。
「やはり新品のBBSホイールを履いてみたかったんです。自分も乗るつもりだったので」と父は言うが……
慶太さんが現在乗っている白のRX-8とBBS RE-V7
慶太さんは「父は良いと言いますが、正直違いがわからないんです。他社のホイールを知らないので……(笑)」
一方、加藤さんは次男・達也さんが乗るRX-8にも、BBSのRE-Vを装着し、クルマライフを満喫している。
「ワンピースの鍛造ホイールはサーキットだけでなく、一般道でも、ギャップを乗り越えても歪みません。軽量なのでハンドリングも楽で、路面を気にせず走れるのがいいですね」
達也さんは今のところクルマより音楽やゲームに夢中だそうで、慶太さんは自宅でもVRでレーシングゲームを楽しんでいるそうだ。
父の趣味に付き合う優しい息子さんたち
BBSのホイールについて、加藤さんはひとつ要望があるという。
「予算が許せば、もっと軽いジュラルミンのホイールがほしいなと思っているんです。ただ、国産車向けのサイズが少ないのが悩みで……。もっとラインナップが充実してくれると嬉しいですね」
手前からRX-8(RE-V7)、RX-8(RE-V)、RX-7(Z32純正オプション)
実は加藤家にはもう1台クルマがある。現在は工場で全塗装中の、加藤さんが知り合いから譲り受けたトヨタMR2だ。こちらにもBBSのRE-V7を履かせて、気分転換に乗りたいと思っている。ただ問題は、戻ってきても置き場所がないこと。
工場にはもう1台、トヨタMR2が控えている
1台は愛知の実家に置くつもりだが、どのクルマを置くかは思案中……。
どのクルマを残し、どれを手元に置くか── 悩める時間もまた、クルマ好きの特権なのかもしれない。