ドライバーの技量を競うインタープロト
2013年にスタートして以来、年を追うごとに参戦者も増え、激戦を繰り広げているインタープロトシリーズ。
同レースの魅力はずばりドライビングスキルのぶつかり合いだ。車両は同レース専用設計の「kuruma」を使用し、マシンの性能は全車共通。各ドライバーは純粋に自身の腕を競い合うというレースである。
また、1台のマシンを2名のドライバーがシェアするというルールも面白い。これはプロとアマチュア(ジェントルマンドライバーという)からなるチーム戦であり、チームとしてのレース運びも重要になってくる。当然タイヤマネジメントなどもシビアになるため、単純に運転技術だけではなく、レーシングドライバーとしてトータルの技量が試されるわけだ。
同レースの発起人でありオーガナイザーは、1972年のレースデビューから半世紀にもわたり日本レース業界を牽引してきた関谷正徳氏。今回は同氏に、インタープロトシリーズ立ち上げの背景を聞いた。
人が主役のモータースポーツをつくりたい
長らくモータースポーツ業界に携わってきた関谷氏。これまで自身が見つめてきた業界を振り返りつつインタープロトシリーズへの思いを語ってくれた。
「モータースポーツと聞くと、まず思い浮かぶのは“自動車同士の競争”でしょう。まず先にマシンがあって、勝敗が決まれば『あのマシンは速かった』となる。当然、資金のあるチームは性能を高めていくし、マシンの性能に涙を飲んだドライバーもたくさんいるでしょう」
速さを競うのがモータースポーツであり、その速さを生み出しているのは“マシン”と“ドライバー”である。しかしこれまでのレースシーンではどうしてもマシンが目立ってしまい、ドライバーの存在はほとんど語られてこなかった。
「たとえば他のスポーツの場合、一般人が見てもアスリート達のレベルの高さって分かりますよね。でも、ことドライビングに関してはその判断が難しい。それに加え、エンジンのパワー競争をしてきたレース業界は『クルマの性能が良ければ勝てる』というイメージを社会に植え付けてしまった。これはね、僕ら業界の人間が何十年もやってきた結果だと思っています」
日本のモータースポーツはこのままでいいのだろうか? そう考えた関谷氏はインタープロトシリーズを立ち上げる。
「ファンの中には『あのドライバーは本当は上手いのに……』と思っている人はたくさんいます。だからこそ、ドライバー同士が純粋に技量を競える場、人が主役になれる場所というのを目指してインタープロトをはじめたんです」
言い訳ができない環境だからこそ見えること
前述したとおり、インタープロトシリーズは専用開発・設計されたマシンを使ったレースである。これには、ドライビングスキルを競うということ以外にも理由があるという。
「メーカー車両のワンメイクというのはこれまでもありましたよ。ただ、それだと他メーカーのドライバーはまず出てこない。それでは意味がないですよね。それに、これは厳しい言い方ですが勝敗が決したときにクルマがどう、エンジンがどう……そんな“言い訳”をできない状況にしたかったんです」
結果が出た際に発信される敗者の声。実際にマシンの差があったとしても、それを勝敗の理由にしてしまうことで見ているファンはどう思うか。
「たとえば“◯◯が悪かったから負けた”と、誰かが言ったとする。それを見聞きしたファンは『マシンに差があったんだ』と思う。そうなると、もうそのレースはマシンの優劣でしか見えなくなってしまう。ドライバーの能力は二の次になってしまうんです」
「速く走るためには、ドライバーの技術が必要不可欠です。それは操縦技術だけでなく、咄嗟の判断力だったり、レース全体を組み立てる力だったり。そうしたドライバーたちのトータルでの“人間力” というのを、僕はレースを通して見てほしい。だからこそ、どこのメーカーにも属さない、言い訳が通じないクルマが必要だったんです」