平成を駆けぬけ、今も輝き続ける傑作たち。|MOTORIST https://www.motoristweb.jp/

近年、顕著になったネオクラシック勢の高騰は、E36型3シリーズもその例に漏れず、グレードを問わず価値が上がり続けている。しかし、たとえ極上のE36 M3が来たってこの1台を前にしたら、ただひれ伏すしかないだろう。日本未導入だったツーリングボディにして、端正なエアロパーツとデコラインに象徴されるように、これは純然たるアルピナである。正確にはアルピナB6 2.8ツーリング・リミテッドエディション。当時のニコルが日本市場に向けて限定発売したという意味での“リミテッドエディション”だという。アルピナ社がバランス取り&メカニカルチューニングを施したウルトラシルキーな直列6気筒を嗜めるというだけで比類なき価値が宿るのに、それがツーリングボディだというのだから通にとっては堪らない。

 この個体はオーナー氏の愛情により、大切に育まれている。とはいってもガレージに仕舞い込んでいるわけではなく、率先してストリートに連れ出して彼の日常に彩りを加えてきた。1998年式にして走行距離は16万kmを超えたというのに、時間や距離の長さをまるで感じさせない抜群のコンディションを保つ。不躾なモディファイを加えていないところも、クリーンな雰囲気にひと役買っている。しかし、ただひとつのオーナー氏の主張にして、互いに呼応し合っているかのようなモディファイがホイールだった。BBSジャパンの伝統的銘柄であるLMに置き換えたのである。ホイールもクルマと同じく“リミテッドエディション”だ。LMが今年で30周年を迎えたことを記念した限定モデルで、いかにもBBSらしい色味ながら、最新の切削加工、塗装技術を持って高級感を際立たせた「ダイヤモンドゴールドディスク×ブラックブライトダイヤカットリム」となる。

 アルピナといえば純正フィンスポークが絶対だ、というような先入観はこの艶姿をみたらあっさりと覆される。奥ゆかしき銀色のボディの中で、ひときわ強調されるクロススポークが抜群に似合う。デコラインの色味とも調和していて、アニバーサリーモデルの共演であると唸らされる。

 アルピナの走行哲学をリスペクトして、ホイールサイズは純正と同等の8.0J×17インチとした。225/45R17サイズのミシュラン・パイロットスポーツ5がみせる程よい肉厚感がこの端正なフォルムとマッチする。これならアルピナ哲学をより引き出しながらも、より剛性感のある足もとと、タイヤ性能の秀逸さを含めて抜群の走行フィールを味わうことができるだろう。

 このように、2ピース構造にして30年という時間が育んだ豊富なサイズラインナップを持つのがLMの強みである。特に今回はともに90年代を駆けぬけた者同士のコラボなだけにより親和性が高い。今後、時間の経過とともに見え方が変わっていくことはあっても、魅力は廃れることなく永遠であることを確信した。LM60周年記念が登場する頃になっても、このアルピナB6 2.8ツーリング・リミテッドエディションは孤高のオーラを放つに違いない。

初出:『MOTORIST vol.2』(2024年9月18日発売)
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写真/小川和美 
文/中三川大地 
※内容は発売当時のものです。掲載にあたり一部加筆修正をおこなっています。