MAZDA SPIRIT RACING(以下マツダ)がモータースポーツのすそ野の拡大に貢献し、モータースポーツの文化を発展させていきたい、そんな思いを込めて実施しているチャレンジプログラム。中でも「バーチャルからリアルへの道」はドライビングシミュレーションゲーム「グランツーリスモ」の優秀なドライバーを選抜しリアルなレースへの挑戦をサポートするもの。そんなリアルレースで用いられるロードスターにBBSジャパンの鍛造ホイールが用いられているので注目した。/Text:土田 康弘

バーチャルからリアルへの道に共感し プログラムで使用する車両にBBSを履く

マツダのチャレンジプログラムのひとつである「バーチャルからリアルへの道」はeモータースポーツの世界で腕を競うドライバーを選抜し、リアルな世界のレースをサポートするプログラムだ。
今年で2期目となるこのプログラム、グランツーリスモを使った予選では7,500名のエントリーを集め27名が選ばれた。さらにリアルにおける体験走行を通じて6名のドライバーが今期のプログラムを受けるメンバーとして選抜された。

選抜選手を激励したマツダ㈱「人馬一体ロードスターチーム」と彼らを支えるスタッフ陣

そんなドライバー達がシーズンを通じて参加しているのがマツダファン・エンデュランス(通称:マツ耐)だ。チャレンジプログラムの参加者はバーチャル to ロードスターとしてチームを組み、各レースに参戦中だ。車両はロードスター(ND)を用いてノーマルクラスのレギュレーションに合わせた仕様となっている。

その車両の足もとに用いられているのがBBSの鍛造ホイールであるRE-L2(16×6.5J IN45)だ。これはチャレンジプログラムの趣旨に共感したBBSがサポートを実施したもの。グランツーリスモのオフィシャルパートナーを務めたBBSは、バーチャルの世界にも常に注目を注いできた経緯がある。まさにバーチャルからリアルへの道はBBSも共感するモータースポーツのひとつのスタンスでもあるのだ。またBBSの鍛造ホイールは初代ロードスター(NA)から純正採用されるなど、マツダとの強いつながりがある。BBSとマツダ、両社が思うモータースポーツの裾野拡大の思いが込められた象徴的なコラボレーションのひとつになっている。

マツ耐・茨城ラウンドに密着してプログラム参加者の走りと思いに注目

このようなマツダ&BBSの取り組みを実際に見て確かめたくて、7月28日に開催されたマツ耐の茨城ラウンドでマツダ株式会社 ブランド体験推進本部でチャレンジプログラムを担当されている廣田賢興さんにお話を伺い、密着取材してきた。茨城ラウンドに参加するのは2024年の選出ドライバー6名と昨年のドライバー2名の合計8名、2台のロードスターを擁しての2チーム体制で臨むこととなった。

マツ耐 茨城ラウンドの舞台となった筑波サーキット

マツ耐は普段乗っているクルマで気軽にレースに参加できるレギュレーションが魅力で、ロールケージなどの特別な装備も不要ということもあり誰でも気軽に参加できるのが魅力であり特徴の一つ。
競技ルールはいたってシンプル、150分の規定時間内にどれだけ多くサーキットを周回したかを競うもの。レース途中で燃料の給油は禁止されるのも特徴。そのため速さだけを求めるのでは無く、燃料やタイヤ、ブレーキなどのマネジメントを含めて、チームで作戦を立てて周回を重ねることが勝利につながるレースでもある。身近ではあるが同時にモータースポーツのさまざまな知識や戦略が学べるレギュレーションになっているのもマツ耐の魅力と言えるだろう。

チームの監督を務めるのはTCR代表の加藤 彰彬さん。マシン作りからドライバーへのアドバイスなどを手がけるチームの頭脳でもある。そんな加藤さんにBBSの鍛造ホイールRE-L2に対するコメントをもらった。

「ロードスター(ND)が出た当時、パーティーレースに使うホイールを作って欲しいと相談したのがBBSとのつながりの始まりでした。現在用いているRE-L2はきれいにタイヤを路面に押しつけることができるホイールだと感じています。そのためサーキット走行していてもタイヤがきれいに減るのも特徴です。また軽くて粘りもあり、ピーキーになりすぎない性格を持ち合わせているホイールです。その結果、扱いやすく耐久性が高いホイールになっているので今回のプログラムで走るマツ耐にもフィットするホイールだと思います」

ライトウェイトカー向けにラインアップされているRE-L2、ガチガチの剛性を必要とするレースでは無いマツ耐のレーススタイルともマッチするのが同ホイールが選ばれた理由なのだろう。

プログラムへの参加ドライバーは多種多様、思い思いのアプローチでレースを楽しむ

次に参加したドライバーにバーチャルとリアルの違いについて話を聞いた。川上 奏選手はグランツーリスモのワールドファイナルのチャンピオン。しかしバーチャルのエキスパートでもリアルの世界では慣れが必要であることを語ってくれた。

「リアルでクルマをドライブすると身体にGが加わるのがバーチャルとの大きな違いです。身体で荷重の変化を感じながらのドライビングになります。その際にはホイールからのインフォメーションも大切なので、ホイールの剛性は気になります。微細なフィーリングが感じ取れるようにもっと走り込んでいきたいと思います。現時点では同じコースを走ってバーチャルのタイムには若干及ばないので、もう少し車両に慣れていく必要があると思っています」

またチャレンジプログラムにはさまざまな年齢や経歴のドライバーが参加している。その一人が桂三幸の高座名を持つ落語家である井上幸浩さんだ。年齢も45歳とモータースポーツをスタートするには異色の存在。

「クルマを持っていないので、これまではバーチャルでのみモータースポーツを楽しんできました。しかし実際にサーキットを走ると色々なことがわかりました。もっとも強く感じたのはクルマのさまざまな挙動を体で感じることができる点です。一方でバーチャルは目で見えるインフォメーションが充実しています。ブレーキの深さや通過スピードなど、さまざまな表示があるんです。その差を埋めていくのが現在の課題です。走行後にロガーのデータを見て、ひとつひとつのコーナーを復習しています。落語家とレーサー、まったく異なる道なのですが両方を究める二刀流でがんばっていきます」

昨年のメンバーも当日のレースではドライバーやサポートとして参加した。その一人でありドライバーとして参加した市井 智也さんに先輩としての思いを語ってもらった。

「1年間走ってきた1期生として2期生に伝えたいことは“リアルを気にしすぎないこと”です。グランツーリスモでタイムが出ている通りに走れば、リアルでもタイムが出ると考えて欲しいです。私は“グランツールスモっぽく走る”と表現しています。リアルとバーチャルは別物と考えがちなのですが、両者はつながっているので走り方は共通する部分が多いと考えると良い結果が出ると思います」

マツ耐・茨城ラウンドでチームは順調に周回を重ね、予選順位からジリジリと順を上げていく展開。終盤には8号車(バーチャル to ロードスターR、鍋谷/石水/川上/深谷)が上位に食い込み、総合4位(クラス4位)でチェッカーを受ける。もう一台の9号車(バーチャル to ロードスターV、新木/井上/岩見/市井)も健闘を見せ、クラス6位(総合7位)でチェッカーを受けた。車両のトラブルも無く最後まで安定した速さを見せた2台、ドライビングの進化のみならず燃料/タイヤマネジメントなどでも収穫のあるレースになったようだった。