2022年からBBSジャパンがワンメイク供給を開始したアメリカンモータースポーツの最高峰「NASCAR」。2024シーズンの開幕を直前に控えたそのNASCARを昨年の最終シリーズの様子を交えてご紹介する。

全米人気No.1モータースポーツ

日本では多くの方は「ナスカーの名前だけは知っている」という感じではないだろうか。BBSジャパンではアメリカを拠点とする販売代理店BBS of America(以下BBSアメリカ)を通じ、NASCARのトップカテゴリー「NASCAR カップ・シリーズ」へ鍛造ホイールをワンメイク供給している。

75年もの歴史をもち、2023年も全36戦で争われたNASCARについて、プレーオフ制で4人が総合優勝を争う最終シリーズ “チャンピオンシップレース” のフェニックス(アリゾナ州)を訪れることが出来たのでその様子をご紹介する。

2023年11月現在、日本からアメリカへは新型コロナウイルスに伴う入国制限は撤廃されており、ウイルスの世界的流行の前と同様、ESTAと呼ばれる電子渡航認証を事前に申請・許可されるのみで渡航可能だ。フェニックスへは日本からの直行便は無く、西海岸ロサンゼルスなどで乗り継ぎ最短で13時間程度を要する。

フェニックスにはいくつかの空港があるが、主に使用されるのはフェニックス・スカイハーバー国際空港となる。そこから車で30分ほどと、さほど遠くない街の郊外に位置するフェニックスインターナショナルレースウェイは、1960年代から続く歴史のあるサーキットだ。
アリゾナと聞けばそれだけで砂漠の中というイメージがあり、また、フェニックスレースウェイもシンボルマークにサボテンが使われる。実際にも砂漠の中ではあるのだが、街の郊外といった程度で観戦に訪れるにも便利な場所となる。

フェニックスレースウェイは1周1マイル(1.6km)のオーバルコース。メインスタンド側にドッグレッグと呼ばれる若干のカーブがあり、アルファベット「D」のようなシェイプの変則オーバルになっている。BBSジャパンがホイールを供給する「NASCAR カップ・シリーズ」はストックカーレースの最高峰であり、アメリカのモータースポーツでNo.1の人気を誇る。

ストックカーレースとは元々は市販車をベースとした車両で競われていたものだが、現代では完全にレーシングカーとして制作されたシャシーに市販車風のボディをかぶせたものとなっている。エタノール15%を配合した専用の燃料を使いOHV・V8エンジンが爆音と共に発生させるのは約670馬力だと言うから、最低重量約1,500kgと一般的な乗用車並みの重量に定められた車体を蹴り飛ばすその強力な動力性能は想像に難くない。

トヨタカムリ、シボレーカマロ、フォードマスタングといったおなじみの市販車を模した形状のレースカーで争われ、空力デバイスの無い車体同士、かつ40台もの台数でのレースは結果として抜きつ抜かれつのバトルとなることが必至。そこにピットイン戦略とタイヤ交換作業の巧拙が加わる。順位は目まぐるしく変わり、それがNASCARの醍醐味と言える。

車両には長らく15インチスチールホイールが使われてきたが、伝統の5ラグ(5H)スチールホイールが2022年以降BBSアルミ鍛造18インチセンターロックホイールに切り替わった理由としてはNASCARのオーガナイザーの求めた「進化」だ。18インチセンターロックへの変更は賛否両論でもあり、各チームや熱心なNASCARファンからの全面的な支持をもって移行したものではない事は我々も承知している。
5ラグのピット作業がNASCARだ、という意見もあろう。それでもオーガナイザーが求めた「進化」にはアルミ鍛造18インチセンターロックホイールに関連するものについて、三つある。

まず一つ目はブレーキ性能の強化。15インチホイールに収まるサイズのブレーキでは300km/hにもなる高速からブレーキングの繰り返しに対応できない。二つ目はそれに伴う放熱性確保のため、スチールでなくアルミ鍛造が選択された。最後の三つ目は安全性だという。5ラグであってもすなわち危険とは言い切れないが、一瞬一秒を争うピット作業において万一作業に不具合があった場合には、ホイールナットが脱落し、そのチームの車両が危険である以外にもコース上にパーツを撒いてしまう二次被害の可能性もある。そのような三つの「進化」と理由から、現在BBSがホイールを供給するに至っている。

奇しくも日本で人気のSUPER-GTや、全くフィールドの異なるレースであるF1についても2023年現在18インチホイールを採用している。

NASCARホイールに求められる性能

昨年、BBSアメリカの紹介でも記載したが、NASCARへのホイール供給それ自体がアフターマーケット製品のプロモーションのみを目的とするものではない。まずはレースへの供給そのものがビジネスでなければならないし、もちろんのこと、サーキットでの走行から得られる情報をアフターマーケット品の設計にフィードバックしていくことがポイントとなる。

NASCAR向けホイールはそのレースの特性から、車両の接触までも考慮した高強度・高剛性のものとなっており、画をご覧いただければわかるようにメッシュ部のスポーク高さはかなり厚く設定されている。ブランク材からのマシニングによる仕上げではない、デザイン面を金型で形成する金型鍛造でこの高さ、この細さのスポークを実現することは並大抵の技術では不可能であり、我々BBSジャパンの中でも試行錯誤を繰り返し完成に至っている。

そうした技術開発から得られた新たな知見はRE-V7を始め、アフターマーケット製品の新規開発に織り込まれていく。
ちなみに、完成し現在NASCARへ供給しているホイールの型番は「RE1948」である。1948は、冒頭で75年の歴史を持つと紹介したNASCARの始まった年そのものであるが、通常は理由の如何に関わらず社内の品番を前後させることは出来ない。その番号を狙って取得したBBSアメリカの経営陣はNASCARをどれほど重要と捉えているかの表れである。

最終シリーズとなったこのフェニックスでは #12 チームペンスキーのライアン・ブラーニー選手が2位となり、今期総合優勝を獲得した。
NASCARは2024シーズンも2月にサンゼルスでのプレシーズンマッチ後、デイトナ500(フロリダ州)を皮切りに全36戦が開催される予定だ。残念ながら日本でのテレビ放送は無いが、動画配信サイトなどでご覧いただくことが出来る。

また、もしアメリカに渡航される機会が有れば、迫力満点のNASCARを是非生で観戦してみていただきたい。特にレースや車の知識が無くとも、40台近くものレースカーがコースによっては200マイル(320km/h)で疾走する姿は観客を魅了し、アメリカらしい大興奮の祭りを体験することが出来る。ご覧いただく際にはカップ・カーの足元はBBSジャパンの鍛造ホイールが支えていると少しでも思いだしていただければ幸いである。

現在はカップ・シリーズへの供給であるが、今後は下位のカテゴリーへ供給が拡大していく可能性にも期待しながらまずは以降のシーズン開幕を待ちたい。